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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2416号 判決

控訴人 陳栄

右訴訟代理人弁護士 鈴木栄二郎

被控訴人 乙村良香

被控訴人 丙山梨香

右両名訴訟代理人弁護士 芹沢孝雄

同 相磯まつ江

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(主張)

一  控訴人

控訴人は、現在中華人民共和国を自己の祖国とし国籍もそのとおり選択しており台湾に帰るつもりはないのであるから、帰国した場合も住所は同共和国である。したがって、本件において控訴人についての準拠法は中華人民共和国法である。

二  被控訴人

控訴人の右主張を争う。

控訴人は台湾の本籍地で出生し、昭和八年頃日本に入国し、爾来日本国内の住所において生活しているものである。そして控訴人の父陳慶は、同じく台中市の桜町一丁目三番地で出生し、居住していたものであるから、現在における中華民国人であり、中華人民共和国人ではない。中華民国国籍法第一条第一項第一号は、血統主義を採り中華民国国籍取得の要件として「出生の時その父が中国人である者」と規定し、控訴人は、中国人を父として出生しているので中華民国の国籍を取得していることは明らかである。また控訴人の母陳良枝、妻陳花枝も台湾において出生したものであるから中華民国人である。よって、血統主義、生地主義のもとにおいて控訴人は、中華民国の国籍を有するものである。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、当裁判所は、原裁判所と同様に被控訴人らの請求を正当であると判断するが、その理由は、次に附加するほか、原判決の理由記載と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決書八枚目表八行目中「丙山花子」の、同九行目中「被告」の、同一〇枚目表九行目中「被告本人」の、同一〇行目中「丙山花子」の、同一一枚目表九行目中「花子」の、同行中「被告本人」の各次に、「(原審及び当審)」を、各加える。

(二)  原判決書一一枚目表八行目中「甲第一、三号証、」の次に「成立に争いのない事実に徴し真正に成立したと認められる甲第三〇号証の一ないし九、」を加え、同一〇行目一一行目中「本籍有する者」を、「本籍を有し、明治三三年台湾で生まれ台北帝国大学医学部卒業後大正一〇年日本内地に渡来し、更に東京の大学で医学を研究する等爾来引続いて日本内地に居住し、昭和二七年四月二八日平和条約の発効と共に日本国籍を離脱して中華民国国籍を取得した者」に改める。

(三)  原判決書一二枚目裏二行目中「ると、」の次に「前記控訴人の本籍、国籍の異動に関して認定した事実のもとにおいて、」を、同六行目「相当である。」の次に「控訴人は中華人民共和国の国籍を選択取得し、帰国する場合も台湾に帰る意思はなく中華人民共和国の支配する地域に帰国すると主張するが、その主張上国籍取得の時期が明らかでないばかりか、≪証拠省略≫を総合すると、台湾には控訴人の兄弟等多数の親戚が存在して現実の生活を営み、控訴人はその一族としての地位を保ち、東京における中華民国系の華橋聯合会にも所属していることが認められるから、≪証拠省略≫中同人の前記主張にそう如き部分は、にわかに信用し難く、≪証拠省略≫も控訴人が海外に渡航するためには必然的に在日中華人民共和国大使館からパスポートの発給をうけざるを得ない関係上、その申請をして下附されたものにすぎないのではないかとの疑問が濃厚であって、これをもって右控訴人の主張を認定することも困難である。」を各加える。

(四)  原判決書一三枚目表四行目中「原告らは、」の次に「前記認定の事実のもとにおいて、控訴人が確実に中華民国の主権下に帰属していたと認められる期間内に、」を加える。

(五)  原判決書一三枚目裏一〇行目中「いわねばならない。」の次に「(なお、かりに控訴人が現在中華人民共和国政府の定める法律によって現実に規律をうけている者であるとしても、≪証拠省略≫によれば、一九五〇年公布施行にかかる中華人民共和国婚姻法において、婚姻外の父子関係の成立は、認知主義をとらず血縁主義をとっていると認められ、我が法例の解釈上生父の属する国が血縁主義をとっていても日本人たる子が強制認知の訴を起す妨げとならないことについては、多くの判例や学説の殆ど一致して承認するところであるから、上記結論にかわりはない。)」を加える。

二、よって、被控訴人らの請求を認容した原判決は相当であって、これに対する本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、控訴費用は敗訴者の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 舘忠彦 安井章)

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